| +First Love−後編−+ |
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眩しく輝いていた太陽が夕陽に変わろうとしていた。 埠頭が一面見渡せる場所にあるベンチに腰掛け、そこでデュオを待った。 待つ間にと持ってきていた本はすでに2度読み終わり、3度目のページを開こうとしていた。 だが何度ページを捲ろうが内容は頭に入ってこない。 ただ一人の事で頭の中は一杯だった。 本を閉じて辺りを見回せば、聞こえてくるのは波打つ音と、時折飛んでくるカモメの声。 (早く来いデュオ) 焦りは感じていない、ただほんの数かな期待と緊張が胸の中にあった。 こんな気持ちは初めてだった。 デュオが俺の前から突然姿を消した事を知った時、今まで感じた事のない痛みが体中を駆け抜けた。 心臓が、心が傷を負ったのかと思った。 けれどあの時はそれが何なのかわからなかった。 でも今ならわかる。 あれは悲しいという感情だ。 何故悲しいと思う? それは……あいつが俺の側にいないから。 俺にはあいつが必要だ。 何故必要だと思う? それは……あいつが好きだからだ。 好き……そう考えた時ふっと心が軽くなった気がした。 デュオを血眼になって探していたのもデュオが好きだからだ。 いなくなって初めて気づいた。 初めて人を好きになった。 いつの間にか目を閉じて考え込んでいた。 人の気配がする。 目を開けて視線の先に顔を向けると、こちらに近づいてくる人影があった。 迷わずこちらに歩いてくる人物。 だがそれはデュオではない。 前を通り過ぎて行くかと思われたがそいつは俺の目の前で止まった。 「よお。」 「………。」 「アンタ一人か?」 「………。」 「おい、聞こえてんだろ?」 「何だ?」 「へへっ、なぁちょっくら金貸してくれよ。今ピンチなんだよ。」 どうやらこの辺を縄張りにしているチンピラの様だ。 「なぁいいだろ?」 こういう奴は世界が平和になろうがならまいが必ず一人はいるもんだ。 相手にせず立ち上がろうとした時、反対側から声が聞こえた。 「おいおい、弟が頼んでるんだぜ、貸してやれよ。」 ニヤニヤしやなが近づいて来て俺の前で止まった。 (兄弟か…) このまま何もせずに帰ってくれるような相手ではなさそうだ。 (仕方がないな) 俺は立ち上がって手を後ろに回した。 「おっ、そうやって初めから素直に出せばいいんだよ。」 俺が財布を取り出すと思ったのか奴等は上機嫌だ。 そのまま腰の後ろに差してある銃に手を掛け取り出したその時。 一発の銃声が鳴り響いたかと思うと俺の手から銃が落ちた。 ほんの一瞬の出来事で交わす余裕がなかった。 「こういう場合どう見てもおまえの方が悪…くないけど。怪我はないかい、アンタ達?」 「何だお前?」 (デュオ!) 後ろの階段を上がった場所にデュオは立っていた。 初めて会った時と同様、顔が見られないように帽子を深く被り、銃口はこちらに向けたままで。 口元は笑ったままこの状況を楽しんでいる様だった。 「怪我したくなかったらさっさと立ち去った方がいいぜ?」 「何ぃ?」 「バカか、こんなガキ相手に怪我する訳ないだろ。」 チンピラ共がデュオの発言をバカにした様に鼻で笑った。 「バカはアンタらだっての。下見てみろよ。」 二人の視線が同時に下を向く。 「「!!!」」 そこに落ちている物を確認して驚いた様だった。 「オレが撃たなきゃアンタら今頃死んでたかもな〜♪」 死ぬという一言にビビったのか、二人は慌ててその場を去っていった。 「ば〜か、ホントに撃つわけないっての。」 声だけはおどけているが二人が去っても一向に銃を降ろさないデュオ。 それどころかこちらに来る気配もない。 俺も何故かその場を動けなかった。 どれくらい経っただろうか。 漸く銃を腰に戻したデュオがこちらに近づいて来た。 階段をゆっくり降りてくるデュオをじっと見つめる俺。 後数歩で俺の目の前にやって来る。 一歩一歩近づいてくる度に大きくなる自分の鼓動がうるさかった。 「久しぶりだなヒイロ。」 「ああ。」 「で、何の用だよ?こんな所まで呼び出してさー。」 未だにその表情は見えずにいる。 「またお嬢さんが誘拐されたとか?それとも別の任務とか?」 デュオが手を伸ばして銃を拾う。 「それともオレを殺しに来たとか?」 胸に銃口が押し当てられる。 「………。」 「………。」 「……な〜んてな。」 一度銃をクルクルと回してから俺に手渡した。 「で?」 「?」 「ホントは何の用なんだよ?」 地球のこんなとこまで呼び出しやがって、と付け加えて。 「何故俺の前から姿を消した?」 「は?何がだよ?」 「お前は俺が探している事を知っていたはずだ。なのに何故逃げる?」 「逃げてねーよ。ちゃんと会いに来ただろ。」 そう言いながら未だにデュオは俺と目を合わせない。 「お前は必ず来ると思っていた。」 デュオの目が何故だと問い質している。 「お前は俺が直接会いに行っても必ず逃げると思った。」 追えば逃げる、ならば自分から来させればいい。 「何も知らないヒルデに頼めばお前は来るしかないだろうと思った。」 「……ったく、嫌なヤツだぜお前って。」 漸くデュオが正面から向き合いアイツの目を見ることが出来た。 「ヒルデのヤツさ、俺とお前がケンカしてると思ってるみたいでさ。『早く仲直りするのよ!』だって。」 ケンカなんかしてないってのにな、と続けた。 「まぁお前とはケンカにもならないけどな。」 「どういう意味だ?」 「だってお前、オレがどれだけ話しかけても無視するだろ?そんなヤツとケンカにはならねーって事!」 「俺がいつ無視した?」 「ずっとだよ。オレの事なんか眼中にありませーんって感じだった。」 「そんな事はない。」 「あるだろ!」 声が重なった。 ハッとしてデュオが顔を逸らした。 「確かに……お前の事が鬱陶しいと思った時もあった。」 「そらみろ。」 「でも今は違う。……分かってるからここに来たんだろ?」 「何が?」 「俺が…お前が好きだという事をだ。」 デュオの目が見開いて俺を見ている。 「初めて人を好きになる事を知った。お前が教えてくれた気持ちだ。」 「嘘…だろ。」 「お前もそれを確かめる為に俺に会いに来た。そうだろ?」 (そうでなければお前はここに来ていても姿を現さなかったはずだ) 「お前今までそんな事……。」 「確かに一言も言わなかったな。だが事実だ。お前も俺が好きだろ?」 「な!何言って……。」 デュオが動揺しているのが伝わってくる。 「今でも好きだろ?」 「好きじゃない。」 デュオは今でも俺の事が好きなはずだ。 俺にはわかる。 あの日俺の前から姿を消した事、今ならわかる。 あの日デュオは俺にカードを残して行った。 俺にしかわからないカードを。 でもあの時の俺はその意味が分からなかった。 けど今なら分かる。 何故なら俺も同じカードをアイツに呈示したから。 「いい加減認めろ。」 答えは一つしかないんだから。 「俺が好きだな?」 「……っくしょー。何でお前そんなに偉そうなんだよ!それが告白する態度かよ!」 「どうなんだ?」 「あー好きだよ!これでいいか!」 帽子を脱ぎ頭をわしわしと掻いてるデュオは少し照れている様だった。 「ああ。」 「お前……今笑った…。」 デュオが驚いた顔をして俺を凝視している。 笑ったつもりはなかったが、無意識に感情が溢れていたのかもしれない。 嬉しいと言う事、悲しいという事、これからデュオと一緒ならもっと知っていけるだろう。 「なぁ。」 「何だ?」 「もし俺が来なかったら……。」 「必ず来ると分かっていた。お前の事なら全て分かる。」 「………あっそ。」 何故か呆れた顔をしているデュオ。 「じゃあさ、俺が今何考えてるかわかる?」 今度は少し意地悪そうな顔をしている。 デュオの表情がころころ変わって行くのを見ているのは楽しい。 俺はじっとデュオを見つめる。 手はポケットに突っ込み、少しばかり肩を縮こませている。 「……どこか暖かい場所に行きたい。」 「当ったり!流石ヒイロさん!じゃ早い事行こうぜ!お前も寒いだろ?」 俺の手を取り先に歩き出すデュオ。 握られた手が暖かい。 「積もる話はそこでしようぜ!」 振り向いて笑顔で話すデュオ。 「了解した。」 デュオの手を握り返し俺達はこの場所を後にした。 終 あとがき |